メルセデスベンツ泣き笑い記

メルセデスベンツSL500に10年余り乗った。走行距離は5万キロ少々で、それほど多く乗ってはいない。1台しか知らないので、これでベンツの全てを語るというのは、メーカーや代理店に対して失礼な話ではある。ここは個人的独断および偏見と解釈していただいて結構だが、私のベンツ体験記を紹介したい。

1,ヤナセの営業マンは優秀である。
 ヤナセの営業所に行くと、大抵は大きな声を出しているおっさんがいる。別に怒っているわけではない。自己顕示欲が強いのだろう。同一人物ではない。そういう人種が集まるのである。このような客にも、営業マンは実に丁寧に応対する。確かに、こちらの要望や質問への対応も早い。

2,燃費は劣悪。
 短距離の使用が中心だったので、ある程度は仕方がないが、リッター6キロ位。5キロの時も珍しくはなかった。高速をできるだけ一定の速度とするよう注意して、瞬間燃費は10キロ程度だった。

3,とにかく強面(こわもて)は効いた。
 前後の車は必要以上と思われる位に車間距離をとる。少々強引でも割り込みは容易にできる。信号待ちで青になって、しばらくボウッとしていても、後からクラクションをうるさく鳴らされることはない。

4,加速感やエンジン音は快適
 私は飛ばし屋ではない。ここ20年以上は無事故無検挙である。しかしたまには必要に応じて無茶な運転もする。こういう時のスピード感、加速時の背中に及ぶGは実に快適で満足できるものだった。音楽を楽しむのは困難だが、いわゆる「ベンツサウンド」は楽しめた。とは言っても別にうるさいというほどではない。

5,燃費以外にも、維持費は半端でない。
 車検の度に数十万円請求される。それも車検の回数が重なるにつれて増額していく。ヤナセの修理工場は、とにかく物品を交換したがると思う。年数が経っているという理由だけで、現時点では特に性能に問題がないと思われても交換を勧める。
 あえて悪口を述べると、私はヤナセの「修理工場」は、実は「交換工場」だと思う。最後の、すなわち4回目の車検では、夕方に工場から電話があり、「何々と何々は交換した方がいいと思います。何々と何々は交換しなくても車検は通るんですが、近い内にダメになると思われ、やはり交換した方がいいと思います。」と早口で言われ、最後に「よろしいですか?」と聞かれたので「わかりました。」と答えて電話をいったん切った。実は外来診察中だったが、やはり納得できないことが多いので、直ちにこちらからかけ直すと「営業時間外」とのアナウンスが流れて応答がない。この車検では結局50万円近くを請求された。さすがにこの時点で、次回の車検はもう受けられないと思った。

6,やはり故障は多い。それも苦笑してしまうような内容の故障が。
 エンジンやサスペンションからのオイル漏れはしょっちゅうだった。ギアがパーキングから全く動かなくなったことが一度。運搬に来てくれたJAF社員いわく「ああ、この車はこれが多いんです」。それをヤナセ社員に言うと、一瞬絶句したが特に強く否定もしなかった。
 電動式のルーフで、オープンカーにできるものだったが、開かなくなったことが一度。それはまだ許せるとして、開いたルーフが閉じなくなったこともあった。「雨が降り始めたらえらいことだ。」と焦りながらヤナセに運んだ。
 ギアの故障もルーフ作動の故障も、コンピューターの問題ということで交換を要し、その度に十数万円を請求された。
 以上はまだ「そんなこともあるかもな」という程度だが、ある日車から降りようとして、ドアの内側のフックを引くと、ポキンと音がして、フックが下にだらりと垂れ下がった状態となり、内側からドアを開けることが不可能となった。「何じゃこれは」と呆れるやら怒りを感じるやらでヤナセに持って行くと、フックからドアに至るワイヤーがあり、それが断裂したとのこと。安物の軽四でもこんな故障はないのでは?
 最後につい先日のこと。走り始めると、減速時に後方で「ドスンドスン」と、すごい音と振動がするようになった。当初はトランク内に入っている物品が動いているのかと、トランクを調べたが何も入っていない。再びヤナセに持って行った。結論として、ガソリンタンク内にはガソリンがあまり動かないようにするための隔壁があり、その一つの固定が外れて、振動の度に他の隔壁にぶつかっていたとのこと。対処法としては、例によってガソリンタンク自体の交換が必要だった。タンクの費用に数十万円、交換の作業費に8万円を請求された。
 この時点で私の気持ちは完全に切れてしまい、他社の車に買い換える決心をした。買い換えが決まってから新しい車が来るまで、再び信じられないような故障が起こるのではないかと冷や汗ものであった。
 下取り価格は150万円で、これを200万円程度で購入する人がいるかも知れない。しかし買ったが最後、維持費に年間少なくとも50万円は必要となる。友人や親戚に売る気持ちは毛頭起こらなかった。
 このような話を友人などに話すと、殆どの人は「それは車の当たりが悪かったのだ。」と言われる。しかし本当にそうだろうか?
 ヤナセの社員(整備担当)に私は言ったことがある。「それにしても故障が多いですね」と。その時の彼の返事はこうだった。
「確かに故障は多いです。」

 すなわち、ヤナセの社員自身も実態を知っているのである。