ナンバーワンとオンリーワン

当院にもホームページがあり、施設紹介のパンフレットもある。
そのいずれにも、施設紹介の欄で「規模的なナンバーワンでなくても、他院にない充実した医療サービスを誇るソフト面でオンリーワンなクリニックを目指しています。」と記している。
今日これを読むと、殆どの方が「何だ。歌の文句のパクリか。」と思われるだろう。
ところがちょっと待っていただきたい。実は違うのである。

施設紹介のパンフレットは開業翌年の平成11年11月より、外来の受付窓口に置いているし、ホームページ(旧)を公開し始めたのは平成14年12月であった。
一方、SMAPが歌った「世界に一つだけの花」は、大ブレークしたのが平成15年だった。
Wikipediaによると、作詞作曲が槇原敬之で、平成14年7月24日に発売されたSMAPのアルバムに収録してあり、その直前に書き上げたとのこと。シングル盤の発売は平成15年3月であった。すなわち、私が書いて世に出した方が早いのである。
確かにこの曲を最初に聴いた時には驚いた。当時大学生だった私の子供達も、「パクられたな。」などと言っていた。そう思ってしまうのも無理はないだろう。
しかし私としては、作詞者に抗議する気は毛頭ない。
その理由は、何を隠そう実は私こそ、他の出典からパクリをしていたからである。

それは平成10年7月にダイヤモンド社から発行された「お客を選べ!!」という本で、著者は緒方知行氏、副題として「ナンバーワン戦略からオンリーワン戦略へ」と、表紙にも記載されている。
内容としては経営戦略に関するもので、私も開業時には起業者としての自覚というか、今までこの方面に全く無知であったことの焦りから、この類いの本はよく読んでいた。この本で特に強調されているのは、「プランタン銀座」の商法である。
バブル崩壊後、日本の百貨店業界は厳しい不況の中で閉塞されてきた。ところがこうした中で、奇跡的とも言えるほど高い伸びを実現していたのがプランタン銀座だった。
その経営戦略、商法の特徴は、千客万来という百貨店のそれまでの常識を破って、女性だけ、それも18歳から35歳までの若い世代をターゲットにして、そこに全エネルギーを集中するというものだった。
社長は一貫して幹部や社員たちにこう言い続けた。「規模は小さいのだからナンバーワンにならなくてもいい。しかしオンリーワンになろうよ。つまりはどこにもない百貨店、オンリーワンのデパートを目指そうよ。それにはオンリーワンの商品作りをしていこうよ。それがうまくいけば結果としてナンバーワンアイテムがつくれる。」
当時この文章を読んで、私自身もずいぶん感銘を覚え、「そうか、確かに今更ナンバーワンの医療施設なんて作れるはずはないけど、何かオンリーワンのものなら可能性があるかも知れない。」との思いから、当院のパンフレットとホームパージを作ったものだった。
(蛇足だが、プランタン銀座は、皮肉にもこの本が出版された直後より経営不振に陥り、結局は平成28年末に閉店となった。残念!)

実は全く同じ時期(平成10年7月)に発行された「オンリーワン」という本もある。
これはレゾナンス出版という会社から刊行されたもので、著者はマキノ正幸氏と島田晴雄氏である。マキノ氏とは、安室奈美恵やSPEEDを生み出した沖縄アクターズスクールの社長で、本書の主題は「これからの日本には、好きなことを徹底的にやることが幸せにつながるという教育が必要だ。」というものである。そうでないとクリエイティビティは生まれないという。
マキノ氏は述べている。「子供たちというのは(略)何をやるにもまず心を開いて自分の感性を徹底的に磨いていって、何か得意なものに対して自分が思い詰めていったときに、どんな発想が起こってくるかを経験することによって、どんな方向にもいくことができる。ナンバーワンではないが、自分だけのオンリーワンの世界が開けるはずです。」

話題をSMAPの曲に戻す。槇原敬之は「ナンバーワンとオンリーワン」という言葉について、「天上天下唯我独尊」という仏教の教えが念頭にあってひらめいたと言っているらしい。
しかし下衆の勘ぐりかも知れないが、これだけほぼ同時期に、複数の人間が同じ台詞を述べているという事実から、どうもそのルーツは更に別なところにあって、パクリとは言わないまでも各人の潜在意識にあったのではないだろうか。

改めて言います。当院のホームページおよびパンフレットにある「ナンバーワンとオンリーワン」の記述はパクリです。しかし、SMAPの歌からパクったものではありません。
「世界に一つだけの花」より、私の方が先に世に出していました。
(2017年、神戸市産婦人科医会報に掲載。一部加筆訂正。)