婦人科診療-更年期治療

更年期以降になって卵巣機能が低下すると、卵胞ホルモン(エストロゲン、いわゆる「女性ホルモン」)の血液中レベルが下がって、さまざまな不快な症状としてほてり・のぼせ・発汗・不眠・うつ状態が起こります。この低下したエストロゲンを補充して更年期症状の直接的な治療をおこないます。

ホルモン補充療法

経皮吸収のテープもしくはゲル剤が中心です。いずれも皮膚からの吸収を促進させるためにアルコールが添加してありますので、アルコールに触れると皮膚が発赤する方には内服薬を処方します。エストロゲン単独を補充すると、子宮内膜ガンのリスクがあります。そのリスクを軽減させるために黄体ホルモンを併用します。既に子宮が摘出されている方には黄体ホルモンの併用は不要です。子宮内膜ガンのリスクに関しては、黄体ホルモンとの併用によるホルモン補充療法の方が、全くしない場合よりもむしろ低下するともいわれています。乳癌のリスクに関しては、そのリスクが高くなることは否定できません。しかし黄体ホルモン併用の有無とは無関係です。定期的な乳癌検診は必須です。適応年齢は特に決まりがありませんが特に40才以前に閉経になった方、いわゆる早発閉経の方では早めに開始された方がいいでしょう。年齢の上限もありません。60才以上で開始すると乳癌のリスクが高いという説もありますが、否定的です。北欧では70才を過ぎてから開始する場合も多いと聞きます。

漢方薬による治療

リスクは最も少なく、非常に有効な例もあります。どのような処方を用いるかは、千差万別と言えます。患者様御自身がどのような状態(これを「証」といいます)にあるのか、東洋医学的な診察をして検討します。

処方した薬が効果不十分な時は、手さぐり的に他の処方を試みます。それは漢方薬の処方では一般的です。 更年期障害に対して最も頻回に用いる処方は「加味逍遙散」です。どの処方を用いたらいいのかよく分からない場合に、まずこれを用いることもあります。適応となる年齢の制限はありません。

プラセンタ療法

「プラセンタ」とは胎盤のことで、胎盤から抽出した物質を注射することを「プラセンタ療法」と言います。

効能効果

■ 更年期障害の改善

特に精神面での落ち着きを取り戻される方が多い様に思います。漢方薬をいろいろ試みても効果が不十分で、結局プラセンタ療法にしてようやく落ち着いた方も少なくありません。いまだに作用機序は不明ですが、身体全体の酸化反応(わかりやすく言えば、細胞が錆びてくること)を抑制し、老廃物を処理して細胞を若返らせているという説があります。

■ 美肌や美白の効果

多くの美容外科で自費診療として用いられています。

■ アンチエイジング作用

抗酸化作用により、皮膚のみならず血管内皮細胞の酸化による加齢現象を予防、改善します。

■ プラセンタの注射薬(メーカー、商品名が異なる2製剤があるが、基本的には同じ)

・「メルスモン」

適応症:「更年期障害」、「乳汁分泌促進」

投与法:皮下注

「ベンジルアルコール」が添加(注射した際の痛みを軽減するため)

・「ラエンネック」

   適応症:「慢性肝疾患における肝機能の改善」「乳汁分泌促進」

投与法:皮下注、筋注

 

両者を皮下注した際の痛みの程度は全然異なります。メルスモンの方が痛くありません。ただし、一方で同じ添加物の影響により、しばしば注射部位局所の無菌性炎症や皮下出血が起こりますが、数日で 自然に治ります。

当院でのプラセンタ療法

更年期障害の改善が保険適応となっているため、当院ではメルスモンを用いる機会が多くなっています。 健康保険における「更年期障害」について、兵庫県では45才から59才まで認められていて、メルスモンの注射は1か月に8回までが認められています。1度に2アンプルから6アンプル程度までの多量を用いることもありますが、これは皮下や筋肉内の注射では困難なので、点滴投与が勧められます。保険適応は認められていないので自費診療となりますが、点滴投与なら添加物は不要なのでラエンネックを用います。

■ 費用

・メルスモン

更年期障害で健康保険の適応とする皮下注の場合、3割負担の方なら2回目以降は1回に付き500円です。

・ラエンネック

点滴投与するなら、1アンプルに付き1,100円(税込)

※顔面皮膚の若返りを目的とした局所注射、あるいは腰痛などに対して鍼灸の技術を応用した「ツボ注射」を行う施設もありますが、当院では現在のところ対応しておりません。ただし、それらの効能効果を否定するものではなく、今後勉強したいと思います。

※投与を受ける前に御了承頂きたいこととして、プラセンタの注射を受けると以後は献血や臓器(骨髄を含む)移植のドナーとなることができなくなります。

健康保険の適応について

上記3種類の治療法について、漢方薬は他の2つの治療法いずれかと併用可能です。ホルモン補充とプラセンタ療法の併用は、健康保険で認められていません。但しこれは兵庫県に関してのことで、併用が認められる県もあります。